『夢二日記』に見る「おしまさん」(長谷川カタ)との成田での再会(その2)
明治43年12月12日、夢二は成田で「おしまさん」と再会した。どこで、どのくらい会っていたのかは分からない。夢二が泊まったのは門前町の旅館、カタが住んでいるのは成田山女学校の寄宿舎で、田町19番地にあり、門前町の近くである。
2人は成田山新勝寺にお参りした後、近くでお茶を飲んだり、食事をしたのではなかろうか。
夢二は、カタと別れた後、東京に戻るために成田駅に向かった。駅までカタが見送ることはなかったようで、駅に着いた夢二は、日記帳(『夢二日記』)に出会いの様子やカタの感想などを長々と綴っている。
この日のカタの感想について、
<おしまさんは実に清く、そして、やさしく、純な少女だった。そして、すこしも自分と他と欺(いつわ)ったことのない人だ。月のように清い少女だ。>
とあり、
<「あなたが逃れなくなるもで、仲よくしていましようね」と言ったら、「えゝ」と言ったあなたの顔に私の嘗て見たことのない少女の可憐さが見えた。そして、その時、あなたの心の奥までも私の心が触れた気がしました。
あゝ、あの時、私は、もうこれで好い、私の望みはかなった!と思った。もう、こゝで別れても好い、これ以上は決して求めまいと決心した、だから、私は、清く別れて、心よく旅をつづけることが出来るのです。
さようなら、私の可愛い鳴かぬ小鳥よ。>
とあり、夢二は、この日、カタに会うだけで「幸福と満足」を感じ、清く別れたという。そして、『夢二日記』には、
<成田の町を立ったのは九時だった。寒い汽車は、月の好い野の中を走ってゆく。>
と記されている。
汽車の中で、夢二は、車窓に頬をつけ、外を見ながら、想いを綴った。
<やわらかき 愛の若芽を踏みしだき 君おもひつゝ 旅人はゆく
山添ひの かげろう萌ゆる畑中を 君をおむひつゝ 旅人はゆく
君といふ 清き少女を知りしより 今宵の夢の 安らけきこと
安らかに 別れてけりな月にて 清くやさしき人なりしゆへ>
その後、12月28日の『夢二日記』には、
<おや!十二月だといふのに、月見草が咲いている。かへりさき!かへりさき!おしまさんのくれた花、おしまさんに逢ったよふな気がする。>
とある。



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